「残業ゼロ」の吉越浩一郎さん訳『即戦力の人心術―部下を持つすべての人に役立つ』
前回『リーダーシップの旅』を記録したので、リーダーシップつながりで本書を。
アメリカ海軍の「最優秀チーム」を育てあげたというマイケル・アブラショフの著書。訳者が「残業ゼロ」の著書で有名になった吉越浩一郎さんだったので、以前手に取りました。前回の記事同様、自分のチームができていろいろ考えていた時期(2007年頃)、というのが読んだきっかけとして大きいですが、自分の祖父と曽祖父が海軍出身ということも、ちょっとばかりありました。
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- 発売日: 2008/09
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(1)引用・要約 P.140
マニュアルはすぐ腐る
海軍には「標準行動規定」というマニュアルがある。どのビジネスも同様だが、マニュアル通りに行動することが、結局は安全かつ、有効だと実証済みなのだ。日常はこのマニュアルにしたがっていれば、困った状況に陥ることはまずない。
反面、ずば抜けた成果を得ることもほとんどない。そして、あまりにも多くの場合において、このマニュアルはおよび腰な行動の原因となる。そして本当に重要なものを見えなくしてしまう欠陥がある。
軍の目的は「あらゆる状況において最大限の戦闘力を発揮する」というものですが、マニュアルにしばられることで、つまらない官僚的な検査を受けたり、本来の優先事項から逸脱した行動を取らざるをえなかったりした、と著者は言います。
続いて、イラク戦争当時、ペルシャ湾で遭遇した緊急事態のエピソードが紹介されます。正体不明の21機のジェット機が接近し、艦が緊迫状態に陥ったとき適切な行動がとれず、身近にいた指揮官すら部下に「どうすればいい?」と聞く始末だった、と。(ジェット機は反転して離れていき、結局交戦はなし)
このエピソードの原因は、「本来求められている戦闘への準備をおろそかにし、義務的にたずねてくる軍のトップの応対に、あまりにも多くの時間と精力を費やしすぎたこと」でした。
目の前の仕事に追われるあまり、本来大事なことは何なのか?を忘れてしまう、というのは身に覚えがあることです。特に繁忙期は、目の前の仕事をこなすことに集中してしまい、何のための仕事か?を見失うことがあったように思います。仕事のために仕事をしているような感覚です。
Web制作のプロジェクトで言えば、短納期の仕事は特にそういう傾向がありました。とにかく期日までに終わらせなければ!と必死になるあまり、仕事が作業的になってしまうのです。
もちろん、品質やコストよりも、納期を守ることが重視されるケースも多々ありました。ただ、できあがったWebサイトが成果を生んでいるか?という視点で見ると・・・なこともありました。
「そもそもこのサイトの目的ってなんだっけ?」とか
「この納期の必要性って何?」とか
そもそものポイントに立ち返っていく必要が本来はあるのですが、切迫した状況でここまでひっくり返すには相当なエネルギーを要します。プロジェクトメンバーも「何言っちゃってんだよ、早くやらないと終わらないよ(帰れないよ)。」と思うかもしれません。
そこで足を止め、踏ん張るのがリーダーなのでしょう。結果、踏ん張り切れなくても、勇気を持って立ち止まり、考えることができるかどうかがまず大事だと思います。(言うは易しで、私はだいぶ挫折が多かったですが)
目の前のことを優先するあまり、つくったサイトが成果を生まなければ「ああ、Webって大して効果ないなぁ。」なんて思われてしまうかもしれません。長期的に見れば、それは仕事の先細りを示唆しています。会社によっては倒産の要因になるかもしれません。仕事がなくなってしまえば、元も子もありません。リーダーは「何が大事なのか?」をいつも考え、そのための準備を怠らない姿勢が必要です。
この視点は、仕事以前に、自分の生き方についても当てはめることができます。
(2)引用・要約 P.166
「カード一枚」のすごい力
たとえば、私は、部下たちの配偶者の誕生日のリストを手に入れ、直筆のメッセージを添えて、そのカードを送った。(中略)どのカードにも、たとえ大げさだとしても、「あなたの旦那さん(あるいは奥さん)はすばらしい仕事をしています」と書いた。(中略)そうすることで、私は部下たちの家族をわれわれの仲間に加えたのだ。
(中略)
決して優秀とはいえないある若い部下が、四人の優秀な同僚たちとある計画に懸命に取り組んでいた。彼の努力に感心し、私は彼の親に手紙を書いた。二週間後、その部下が涙を流しながら、私の部屋のドアをノックした。
「どうしたんだ」と私は尋ねた。
「ずっと関係がうまくいっていなかった父から、たった今電話がありました。艦長からの手紙を読んだ。お前におめでとうと言いたい、と言うのです。そして、私のことを誇りに思うと言ってくれました。父が本当に私のことを励ましてくれたのは、生まれて初めてです。」
上記の引用は手紙にフォーカスしていますが、直接声をかけ、感謝を伝える、または上司に自分の部下を褒めてくれるように頼む、といった話しが続きます。前向きで、直接的な励ましこそが効果的なリーダーシップの本質だ、と著者は言います。
著者は艦長というポジションでありながら、部下たちと細かいコミュニケーションをとっている点が印象的です。DeNAの創業者 南場智子さんも、社内の懇親会で話した社員との会話をExcelで記録しておき、気になったことは折をみてコミュニケーションをとっていたそうです(何かのテレビで見ました)。
上記の話しとは少しずれますが、私が気になったのは部下の家族にも気を配っている点です。お客さんを満足させれば一流の仕事と言えるか? 答えはNo。お客さんだけではなく、一緒に働く同僚や上司、協力会社、自分自身、そして家族を含め、「よい仕事をしているね」と言われるものこそ一流の仕事。以前感銘を受けた、そんな考え方を思い出しました。
自分の経験としては、同僚(夫)とその奥さんを知っているケースがありました。同僚の夫はいつも帰りが遅く、場合によっては家に帰ってこない…日々疲れ果てている同僚の姿に、奥さんが会社への怒りをつのらせる、そんな場面に出くわしたことがあります。
このような状況で、同僚がいくら会社から評価されたとしても、家族という視点から見れば決していいものではありません。仕事のために家族があるのではなく、家族のために仕事があるはずです。あまり単純化して話せるものではありませんが、組織から見ると社員の家族も重要な関係者であり、家族とどれだけコミュニケーションが取れているか? は重要な視点です。
(3)引用・要約 P.231
ダイナミックな仕事に必要な「四つの力」
欧米ではまず「果たすべき目標=ミッション」が上司からはっきりと示される。そこにたどり着くためにどうしたらいいかは部下に託されることが多い。そのため部下一人ひとりの仕事に対する「分析力」「判断力」「常識力」が試される。
それに対し日本ではたとえ同じミッションが示されても、そのあとで「人間力」が重視される。「どれだけ真剣に仕事に取り組んでいるか」「どれだけ協調性があるか」などという基準である。
たしかに「人間力」も必要だが、仕事というものはまず「柱」をロジックで組み立て、その隙間にいわゆる”GNN”、つまり「義理・人情・浪花節」を流しこんでこそうまくいく。
「人間力」ばかりが先立つと、上司の指示に従って行動できる人間がより評価されることにもなりかねず、自分で考えて行動できる優秀な人材は育たない。
(中略)
部下に責任を与えて、最後まで仕事をさせることが、最良の訓練になる。もし間違ったら、そのとき指導すればいいのである。
訳者 吉越浩一郎さんの解説からの引用です。吉越さんは人間力に依存する目標は、「目標=ミッション=使命」ではなく「努力目標」になってしまうという図解をはさんでおり、おもしろいなと思いました。たしかに、という感じです。
かたやロジックばかりの仕事は正直好きになれず、人も動いてくれないことが多いなという感覚はあります。以前の勤め先で聞いて、なるほどなーと思ったことに
認知 → 理解 → 納得 → 共感 → 行動
というモデルがありました。(何かのフレームワークなのでしょうか)
ロジックは「理解」まで、もしくは「納得」の前半くらいまでを推し進めるのに強力なツールとなります。ただ、そこから先、「納得」の後半から「共感」あたりまで進めるにはGNNの果たす役割が増えてきますね。
自分で考えて動いてもらうための原動力は「納得」や「共感」による部分も大きいと思いますので、ロジックとGNNの和洋折衷(?)は意識したいところです。
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